溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

「この先に贔屓にしているオーダーメイド専門のお店があるのよ。上品でシックなデザインのお洋服が得意のお店だけど……残念だけど折原さんには合わないわね。あ、パンプスもおすすめのお店があるけど、紹介しましょうか?」
「あ、今日は大丈夫です、すみません」

村野のようなセレブが通う店など自分には向いていないと、梨乃は頭を下げた。
その途端、村野が履いている茶色のハイヒールが目に入った。
ビロード素材で上品なデザイン。
これもきっと高価なものなのだろうと、梨乃は自分との違いに苦笑した。
厚めの麻素材でできたAラインのワンピースに合わせて選んだエナメルのバレエシューズ。
履き心地は抜群だが、村野のハイヒールとはお値段もゼロがひとつは違うはずだ。

「梨乃?」

村野を見つめ黙り込んだ梨乃の肩を、侑斗がそっと抱き寄せた。

「昨夜あまり寝てないから疲れたのか?」
「え、あ、違います、大丈夫です。人混みに慣れてなくてぼんやりしちゃいました」

まさか村野と自分との差にがっくりしていたとは言えず、梨乃は慌ててごまかした。

「今日はとくに人通りが多いからな。だったらさっさと買い物をして帰ろう」