溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

梨乃と侑斗に歩み寄ってきたのは村野だった。

ベージュのパンツスーツにハイヒール。
腕にはトレンチコートをかけている。
髪は襟足あたりで無造作ながらも上品にまとめられていて、丁寧にアイラインを引いた目はとても印象的だ。
文句のつけようのないその姿を梨乃はまじまじと見つめた。

「こんなところで会うなんてびっくりした。仕事はお休みなの? だったら……あら」

はしゃいだ声で侑斗の隣に立った村野は、そこでようやく梨乃に気づいた。
一瞬歪めた顔をあっという間に笑顔に変え、梨乃に向き直る。、

「こんにちは。……折原さんだったかしら」
「はい。先日はちゃんとご挨拶できず申し訳ありませんでした」

梨乃は侑斗の腕から離れ、深く頭を下げた。

「いえ、別に構わないわ。ところで、今日はふたりでお買い物? この辺りは素敵なお店がたくさんあるから侑斗さんにおねだりでもしているのかしら?」
「いえ、そういうわけじゃ……」

探るような村野の声に、梨乃は口ごもった。