「安心しろ。梨乃もあっという間に白石家の一員だ。すぐに慣れる」
「あの、あっという間と言われても。それに一員って……」

それは侑斗との結婚が近いということだろう。
やはり正式な婚約者に昇格したのは間違いではないと、梨乃はぽっと顔を赤くした。
そのとき、カーブに差しかかった電車が大きく揺れた。
とっさに侑斗の手が梨乃の腰に回り引き寄せる。

「ありがとうございます、あの、すみません」

勢いよく侑斗の胸に飛び込んだ梨乃はもぞもぞと動いて侑斗から離れようとするが、電車の揺れが続きさらに身を寄せた。

「ごめんなさい。窮屈ですよね」
「窮屈だけど嫌じゃない。それに、足に力が入らなくて踏ん張れないんじゃないのか? 昨夜は初めてだから手加減したつもりなんだけど」
「手加減って……? あ、あ、それは、その」
「まあ、ずっと我慢してたから手加減したつもりでも、がっついたのは認める」
「がっついたなんて、もういいです、黙ってください」

車内のざわめきと走行音に邪魔されながら、梨乃もつま先立ちで侑斗の耳に言い返した。
侑斗の胸に手を置き顔を寄せると、ふたりの顔が触れそうになる。