「梨乃を心配してくれてありがとう。だけどこれからは俺が婚約者として梨乃を、あ、翔矢くんも守るし悪いようにはしない。安心してくれ」

躊躇なく誇らしげに話す侑斗の前で、梨乃はいきなりなにを言い出すのだと言葉を失った。
この突拍子もない話に千紗がすんなり納得するとも思えない。

『えーっ。梨乃からなにも聞いてませんけど、ほんとですか? まさか自分の立場を利用して梨乃を脅したうえに無理矢理引きずり込んだとかじゃないでしょうね』
 
予想通り千紗は侑斗の言葉に納得していない。
それどころか声を荒げ怒っている。

「千紗……」

相手は勤務先の幹部だというのに臆することなく厳しい声をあげる千紗の優しさと強さに、梨乃の胸は温かくなる。

「私なら大丈夫。無理矢理じゃない……わけではないけど別に脅されたわけじゃないし私も侑斗さんと一緒に暮らすのが楽しいというか」

梨乃は千紗を安心させるようにスマホに向かってつぶやいた。
途中、侑斗と目が合い照れくさくなる。
真っ赤になった梨乃の頬を見つめながら、侑斗も頬を緩めた。