溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

「いえ、何度か母からレッスンを受けましたが私も翔矢も音楽の才能がなくて弾きません。両親は自分の人生は自分の好きに生きなさいと言ってくれたのでピアノはまったく、です」
 
子どもの頃を思い出しふふっと笑う梨乃を、侑斗は優しく見つめた。

「俺は梨乃とは逆だな。物心ついたころから白石ホテルのために、というか諒太のために力を尽くすようにと言われて育ってきた」

侑斗の声に悲壮な響きはなく、あっけらかんとしている。
梨乃は侑斗がそれを嫌々ではなく前向きに受け止め、楽しんでいるように感じた。
それに侑斗が白石ホテルに誇りを持っているともわかる。
同じ思いを持つ梨乃は、侑斗との距離が近づいたような気がした。

「私も、白石ホテルが大好きです。だから採用されたときはすごくうれしくて、母も大喜びだったんですよ」

梨乃の母親は音大を卒業した後全国展開する音楽教室でピアノの講師をしていたが、持病の喘息がひどくなり二年前故郷である田舎町に引っ越した。
それまで指導していた生徒の中には梨乃の母を慕う者も多く、田舎に居を移した後も直接家を訪ね指導を受ける生徒もいる。