溺愛は蜜夜に始まる~御曹司と仮初め情欲婚~

侑斗もそう考え梨乃に婚約者の振りをやめてもいいと言おうとしていたのかもしれない。

「ん……」

侑斗が、ソファの上で身じろぎ、梨乃はぴくんと体を揺らした。
ふと漏れた声がやけに色っぽく、梨乃は侑斗から目が離せない。
おまけに無造作に投げ出された手が目に入り、それが梨乃の背に回されたときの温かさがよみがえった。
もう少しこのまま一緒にいたい……。
そう梨乃は感じた。

「……やっぱり、無理。聞けない」

あの日の言葉の続きを聞く勇気はないと、梨乃は侑斗の寝顔を見ながらため息を吐いた。


翌日、梨乃と侑斗は百貨店の美術フロアで行われている彫刻家の個展に出かけた。
梨乃が懇意にしている作家から招待券が届き侑斗も楽しみにしていたのだ。
ここ最近で人気が出た若手彫刻家だがどの作品も素晴らしく、ふたりは時間を忘れて作品に見入った。
梨乃は普段から彫刻に限らず美術全般にアンテナを張っていて、そこから仕事のアイデアを得る機会も多いのだが、侑斗も時間を見つけ気分転換を兼ねて足を運んでいるらしい。
今日も熱心に作品を眺めていた。