本物が、まさか目の前に現れるなんて、そんなことあるわけ……。

突然のことに脳の処理が追いつかず、思考がショートしかける。



「なにか?」



呆然とする私に、軽く目を細めて小さく首を傾げる由良くん。



初めて間近で見た彼の整った顔立ちについ見惚れそうになって、でもその意識を慌てて手繰り寄せ、ぶんぶんと首を横に振る。



「いや、なんでも……っ。えっと、雨宿り、どうぞ……」



「ありがとうございます」



由良くんが肩にかけていたスクールバックを長机に置く。


そんな一挙手一投足にすら洗練されたものを感じて、目を奪われてしまう。



「そういえばまだ自己紹介してなかった。俺、二年の由良恭弥です」



私の挙動不審な視線を気にする素振りは微塵も見せず、ふわりといった動きで、由良くんが顔を上げた。



──知ってるよ。もう十分すぎるくらいに。


でも、そんなことは言えるはずもなく。



「私は、凛子。三年です」



由良くんと会話をしている事実に、今にも壊れてしまいそうな自分の激しい鼓動の音を聞きながら自分の名を口にする。