紅葉色の恋に射抜かれて(野いちごジュニア文庫版)

「それは……大会で、先輩たちに迷惑はかけられませんから」
「そうか」
 短く返事をした葉山先輩は、衝立の向こうで着替え始める。特に部室があるわけではないので、着替え場所も分かれていない。そのため、譲り合いで衝立を使って、みんな袴やジャージに着替えていた。
「俺は……六実が義務や責任感だけで弓道を続けているようには思えない」
 衝立越しに、葉山先輩が話しかけてくる。どうしてそう思うんだろうと首を傾げていると、そんな私の疑問を見透かしたように葉山先輩は言葉を続けた。
「もし、六実の言う仲間の足を引きずりたくないとか、そんな考えで弓を引いていれば、ただあたればいい……そんな雑な弓道になる。弓道は狙いさえ決められれば、作法なんて後づけでも的中するからな」
「それは、そうかもしれませんけど……」
「でも、六実の弓道は雑なところがない。真の弓、つまり正しい射法で射られた矢は必ずあたる。そう確信させる力を六実の弓道からは感じるんだ」
 憧れの先輩にそこまで絶賛してもらえるのは、うれしい。だけど、葉山先輩の言うことが正しいのなら……どうして、私は矢を外してしまうんだろう。
 胸がきゅっと締めつけられるのを感じながら、私は二十八メートル先にある的を見つめて、ため息をこぼす。
「私に足りないものって、何なんでしょうか」
「それは、あたらない理由を聞いてるのか?」
 袴に着替え終わった葉山先輩は衝立から出てくると、荷物を棚にしまって私の前に立つ。こうして改まって向き合ったことは今までなかったので、緊張からか鼓動が速まった。
 だからといって、視線を逸らすのも失礼だよね……。
 私は的を見つめるときと同じように、まっすぐな先輩の瞳にそわそわしながらも「そうです」と答える。
 すると、先輩はふうっと息をついた。
「六実、弓道において・勝つ・とは、どういうことだと思う?」