「私、ここにする」
「ここにするって……まさか、高校?」
 声に驚きが混じったのがわかった。それでも私は男の子をじっと見つめたまま、もう一度口を開く。
「私、この高校の弓道部に入る」
 きっと、一目惚れだった。それは彼の弓道になのか、それとも彼自身になのかは私にもわからないけれど……。はっきりしているのは、彼が矢を射る姿をもっと近くで見てみたいということ、ただそれだけだった。

 ――半年後、高校生になった私は今日も射場に立っていた。
 男女含めて総勢五十人近くいる弓道部は、放課後に活動している。入部して一ヶ月だけれど、私は弓道経験者だったので、同じ学年の新入部員とは違い、筋トレや『ゴム弓』といってゴムを弦に見立てて弓を引くという基礎練習をすっ飛ばし、実際に弓を射る練習をさせてもらえていた。
 だからか、同年代の部員とはあまり仲良くなれず、先輩と話すほうが多かったりする。
「いいか、来月の六月九日から三年生最後の試合、県総体の予選がある。今から大会選抜メンバーを発表していくから、どんな結果であっても出場する仲間を全力で応援するように」
 よく通る声でそう言ったのは、この弓道部の主将である葉山弓月先輩。部でいちばん強く、言葉数は少なくて厳しいけれど、みんなからは慕われている。
 そして、高校見学のときに私が一目惚れした美しい射形の持ち主でもある。
「飯田、佐久間、真壁……」
 葉山先輩が県総体の選抜メンバーを読み上げていく。個人戦メンバーは呼び終わり、残すところ団体戦のみになっていた。弓道の団体戦は五人一組で合計二十の矢を射る。