紅葉色の恋に射抜かれて(野いちごジュニア文庫版)

「練習するぞ、時間は有限だからな」
「は、はい……」
 すたすたと弓を取りに行く葉山先輩に首を傾げつつも、私はいつもより気持ちが軽くなるのを感じながら、弓を引いた。

 それから、部活が休みの日に葉山先輩とふたりきりで練習することが増えた。
 今日はあいにくの雨。放課後になり、足早に弓道場へ向かう。下駄箱で靴に履き替えていると、小柄で可愛らしい女の子が傘立ての近くで男の子をじっと見つめていた。
 あれって確か……隣のクラスの水沢小夏さんだよね。相手は……あっ、入学初日に片目に青アザつけてきた人! 有村瑞稀くん、だったっけ。誰かに殴られたのかって、みんなが噂してたな。
 私は改めて、ふたりの様子をこっそり窺う。
 もしや、恋……? 水沢さんが有村くんを好きとか?
 勝手な妄想を膨らませていたとき、ふと高校見学の日に弓道場で見た葉山先輩の姿が脳裏に蘇った。キレイな射形と弓を引く真剣な横顔に息をするのも忘れて、目を奪われていたあの瞬間。私は恋にも似た胸の高鳴りに襲われた。
 今も思い出しただけなのに脈が速まり、私は慌ててその場を立ち去る。
 憧れないわけじゃないけど、恋なんてしてる場合じゃない。それよりも練習!
 胸にわきあがる熱い感情に気づかないふりをして、私は弓道場へ急いだ。
 弓道場に着くや否や、私はさっそく練習に励んだ。弓を引き絞りながら、いつものように自分の射形を葉山先輩に確認してもらっているのだけれど……。
「ダメだ……。前よりはあたるようになってきたけど、日によって的中率が大きく変わっちゃう」
 外れた矢を諦め悪く見つめながらがっくりと肩を落としていると、目の前に立っている葉山先輩が私の肩に手を置く。
「弦を離すまで、じゅうぶんに弦を引ききれてないのと、離れに迷いがあるな。だから矢は通常より早く落下するし、左右にぶれて安土に刺さるんだ」