紅葉色の恋に射抜かれて(野いちごジュニア文庫版)

 形になろうとしたひとつの想いに、私は大きくかぶりを振る。
 それを見ていた葉山先輩が訝しげに片眉を持ち上げた。
「どうかしたのか」
 ……挙動不審だよね、私。
 大きく脈打つ心臓を深呼吸で静めながら、私は平静を装いつつ話題を変える。
「えっと……なんか、信じられないなって……思いまして」
「なにがだ?」
「葉山先輩は、今じゃうちのエースなのに、劣等生だったってことが、です」
「はは、最初からエースな人間なんていないだろ」
 笑いながら振り返った葉山先輩は他の部員がいないからなのか、いつもより表情が柔らかく豊かな気がした。そのギャップに胸がざわつくのを感じつつ、私は葉山先輩の隣に並ぶように立つ。
「それくらい、私にとっての葉山先輩って神様みたいな存在なんですよ」
「……は?」
 いつもはキリッとしている葉山先輩には珍しく、気の抜けたような返事だった。
 それにくすっと笑いながら、私は言葉を重ねる。
「私、中学三年生のときの高校見学で、葉山先輩の弓道を見たんです。なんていうか、弓を引いてる先輩の周りの空気が澄んでいくように見えて……。ああっ、うまく言えないのが歯がゆいんですけど!」
「そ、そうか……とにかく、落ち着いてゆっくり話せ」
 息巻く私の肩に両手を置いた葉山先輩は困ったやつだな、と言いたげに微笑む。
 私はすぐに、はっとして頬を熱くした。
 私ってば、ひとりで興奮して恥ずかしい。
 赤くなっているであろう顔を手でおさえて、チラチラと葉山先輩の様子を窺いながら、私は再び切り出す。
「見ている人の心を洗ってくれるみたいな弓道に出会ったの、初めてで……。そんな先輩の弓道に一目惚れして、この学校に決めたんです」
「そう……か」
 葉山先輩は目を見張って、それからほんのり目元を赤らめる。
 それにきょとんとしていると、葉山先輩は片手で口元を覆い、背を向けてしまった。