世界でただ一人のヒーラーは生殺与奪を握ってます。

　 クロエの黒い瞳が大きく開かれた。映る景色はまさに地獄絵図。あちらこちらから火の手が上がっている。魔物にむさぼり食われた死体のおびただしい数。わずか１７歳の少女が目にするには余りにも衝撃が強かった。口元を押さえ体を震わすクロエの様子を見て、アリシアは声をかけた。
「大丈夫ですか？」
クロエは平然としているアリシアを見て、恐怖を覚える。
どうしてアリシアはこの状況を見て、平然としていられるの。人形のように顔色一つ変えない。わたしはこんなにも恐いのに。勇者だと皆にもてはやされ、いい気になっていたの？
「クロエ、クロエ、クロエ」
反応がなく放心状態のクロエにアリシアは何度も呼びかける。カイとジルも同じような様子だった。