振り返り歩いていく後ろ姿に速くなった鼓動が収まってくれない。

やっと落ち着いたかと思ったのに、さっきよりも速くなってしまった。
体中が熱い。

これは夏のせいなんかじゃない。

絶対、きみのせいだ。


触れられたおでこを手で押さえながら空野さんの背中を見つめる。


初めて愛称ではなく名前で呼ばれた。
その甘い響きがまだ耳に残って離れない。



「……白川」

「あ、はい」

「何回も呼んだ」

「そ、そうなんだ。ごめんね……」



全く聞こえなかった。
落ち着かなきゃ。

謝ったけど、黒瀬くんはなんだか険しい表情をしている。

怒らせちゃったかな……?



「本当に、ごめんね?」

「いや……大丈夫。怒ってないから」

「ほんと?」

「ほんと。ただ、ちょっと焦ってる」

「え?」


それ以上はなにも言わなくて、一緒に花音ちゃんと赤坂くんのもとへ行き水上アトラクションで思いきり遊んだ。

だけど、わたしはまだドキドキしていて、楽しいんだけどずっとふわふわした感覚があった。



やっぱり空野さんのせいだよ。

会えるだけでこんなにうれしいと思わなかった。
名前を呼ばれてこんなにドキドキするとは思わなかった。


どれだけ遊んでいても、空野さんのことがずっと頭から離れなかった。