「お邪魔します」


律儀に挨拶をするけど、わたしの返事を聞かずに家に入っているから、プラマイゼロだ。




「ちょっとごめんね」

「えっ?」


振り返ってわたしの手を持ったまま、いきなり腕まくりをされた。

そこはさっきの人に掴まれていた部分で、あらわになった手首は赤く痕が残っていた。



空野さんはそっと指で触れて「痛かったね」と温かく優しい声をかけてくれる。



「保冷剤とかある?冷やそ」

「あ、自分でできます」


冷凍庫から保冷剤を取ってくると空野さんがそれを受け取り、ポケットの中からハンカチを出して包んでわたしの手首に当ててくれた。

一連の動作を流れるようにしてしまうから、やっぱり頭がついていかない。


わたしの手をエスコートするように重ねて手首をもう片方の手で保冷剤を持って冷やしてくれている。


シーンとした空間がより心拍数を上げている気がして、息苦しい。