そんなに名前で呼んでほしいんだ。
なんだかそこまで言われると、変に意識して緊張しちゃう……。
けど、空野さんが呼んでほしいというなら呼びたい。
「は……」
「は?」
「…………」
握られている手に力が入り、緊張が増す。
その手をぎゅっと握り返す。
好きな人を名前で呼ぶって、こんなに緊張するの……?
「雪乃」
「っ……」
ここで名前呼ぶのはずるい。
空野さんは本当にずるい人だ。
「…………颯、くん……」
俯きがちに初めて名前を呼ぶ。
心臓が爆発しそう。
ドキドキとうるさい。
顔が熱い。
いま、顔を見られたくない。
そう思っていたのに、わたしの顔を覗き込んできた空野さんと視線が絡み合う。
「だ、だめです……」
目を強くつぶると繋いでいる手を軽く引っ張られ、前かがみになる。
その瞬間触れたやわらかい温もり。
びっくりしてすぐに目を開けると、もう温もりは離れていて至近距離で目が合う。



