「白川」
体が固まって動かない。
劇のラストシーンと同じ。
それだけで、つぎにどんなことがあるのかわかる。
わかっている。
だから、動かなきゃ……。
「俺、白川のこと……」
ゆっくりと近づいてくる黒瀬くんの綺麗な顔。
その表情がくるしそうで、いまにも泣き出しそうで、わたしまでくるしくなる。
唇まであと数センチ。
手を黒瀬くんの肩に置き、押そうと力を入れた瞬間、わたしのお腹に手が回り後ろに引き寄せられた。
黒瀬くんの手ではない。
驚いたように目を丸くした黒瀬くんの顔が1メートルくらい離れて見えるから。
じゃあ、この手は……。
「……だめ」
耳元で聞こえたか細い声。
もう片方の手もわたしの首元に回り、ぎゅっと後ろから強く抱きしめられる。
「雪乃はだめ」
顔を見なくてもわかる。
この声で、温もりで、力強い腕で、だれかなんてわかる。
鼻の奥がつーんとして、下から視界が歪んでいく。



