これは、ある女の子の話。

「今日からここがお前の家だ」

そう案内されて戸惑っているのが、この話の主人公 騎馬 朱鷺《きば とき》。

「おじさん…ママとパパはどこに居るの…?」

「…付いてきなさい。」

おじさんに付いていき、畳の部屋に入った朱鷺は首を傾げた。

「どうしてパパとママの写真が飾ってあるの?」

「…父さんと母さんは事故にあって亡くなった。」

顔をしかめている、おじさん。

「今日からここで過ごすんだ。いいな」

「…パパとママは天国に行っちゃったんだね…神様が連れて行っちゃったんだね…」

「…いいか朱鷺。この世界は普通じゃない。お前だけは、この道に足を踏み込ませたくなかったが…まぁ、良い。この世界のルールを教える」

「ルール?」

「そうだ。」

「なぁに?」

「この世界では涙をそう簡単に流してはいけない。舐められたらお終いだ。いいな」

涙を乱暴に拭き取った朱鷺は力強く頷いた

「そして、気配を感じ取り相手を倒す。その特訓を今日から。そして勉強をしてゆっくりでいいから、この世界の事を覚えていきなさい。この世界の女は少々行きづらい。知識を身に着けて相手を圧倒させろ。そして度胸も無いといけない。例えば」

「きゃあっ!」

懐から拳銃を取り出し朱鷺に向けたおじさん

「泣くな!怯えるな!この世界では当たり前に見ることだ!」

朱鷺は震えながら、閉じた目をゆっくりと開けた。

引き金を引いた瞬間、朱鷺は腰を抜かし後ろに倒れた。


おじさんは溜息を付き朱鷺は涙を流し続けた。

「朱鷺。この世界に慣れるには拳銃も使わないといけない。その調子じゃ先が思いやられるぞ」

「私は入りたくて入ったわけじゃないもん!元の場所に戻して!パパとママのもとに!」

「この世界には居ない。現実逃避をするな。」

朱鷺は更に大きな声で泣いた。

すると廊下から声が聞こえてきた

「あら〜靴が増えたと思ったら。あんたブッサイクな顔して何泣いてんの」

「荒療治だ」

「やっだ〜組長ってば。いつの話してんの?」

「…。」

「初めまして。猟豹《りょうひょう》よ。」

「綺麗…」

朱鷺は目の前の女の人に見とれていた。

「当たり前じゃない。あたしこそが一番キレイなんだから」

「おじさん。女の人いるよ?この人は?」

「やっだー笑ウケる笑あたしは正真正銘男よ」

「え…」

「猟豹…お前また喧嘩してきたな。血の匂いが強いぞ」

「やっだ!まじ!?お風呂行ってこよ〜」

「お兄ちゃ…!」

その瞬間、首根っこを掴まれて畳に押し付けられた朱鷺。

「ごめんね〜?あたし、その呼び方嫌いなの。」

謝った猟豹だが、悪びれる様子もなく、力がどんどん入っていき朱鷺は慌てた。

「やだ〜震えちゃって可愛いー笑」

「怯えさせるな。今日から家族になる子だ」

「ふーん?面倒は飛翔に見てもらってね?あたしは嫌よ?」

「いや、お前に見てもらう」

「はぁ!?何でよ!」

「お前が帰ってくる理由になるだろ。お前は責任感がある放棄しないだろ?」

「…しょうがないわね!あんた名前は?」

「騎馬…朱鷺…」

「あっそ朱鷺。あたし帰るの遅いから昼間にパッパっと教えていくから、さっさと覚えてね」

「待っておに…お姉ちゃん…」

「そ。その呼び方で合ってるわよ。偉いわね」

家の中を案内してもらっていると、いい匂いがしてきた。

「ここは台所。飛翔〜ちょっと出てきて〜」

エプロンを付けて出てきた男の人は朱鷺を見るなり、ぎょっとした。

「な…なんだ…その子…」

「組長が拾ってきたらしいのよね。いい迷惑よ。」

「こら!組長の悪口は俺が許さない。というか今まで何処にいたんだ!」

「きゃ〜笑」

朱鷺の腕を掴んで逃げる猟豹

「あんたの部屋は、あたしの隣。部屋に人を入れるのは嫌いだけど特別に入っていいわよ。その代わり勝手に触らないこと!良いわね!」

朱鷺は必死に頷いた

「さてと。あんたの服装ダッサイわね」

「ママが選んでくれた…」

「ダッサイ趣味…ちょっと来なさい!」

朱鷺は猟豹に引っ張られてファッションショーを開催されることになった。

「んー…違うわね〜…」

「お姉ちゃん…もう疲れた…」

「まだ!」

開催されて2時間。

朱鷺は疲れきっていた。

「お前ら…まだしていたのか」

「あら、組長。この子に似合う服がないのよ」

「普段はスーツとして行動するんだ。いいd「良くない!」

「…おじさん助けて…」

「悪いが無理だ。」

「おじさんの裏切り者〜!」

「組長。ここにいらっしゃったのですね」

「どうした」

「ご飯が出来ました。
猟豹。その子は来たばっかりで疲れているかもしれないんだぞ?少しは加減してやれ」

「そんなのつまんないじゃない」

ぶーぶー言いながら服を片付けていく猟豹。

やっと助かった朱鷺。

溜息をつく組長と飛翔。

「そう言えば名前がまだだったな。名前を教えてくれるか?俺は兎田飛翔。飛翔って呼んでくれたら良い」

「騎馬朱鷺…よろしくね飛翔お兄ちゃん」

「…すまないが、その呼び方はあんまり好きじゃないんだ」

「猟豹お姉ちゃんと同じ理由?」

「一緒位にしないでほしい。あれは例外だ」

「ぶっ飛ばすわよ。飛翔」

「俺は別の理由だ。」

「そっか…よろしくね飛翔」

「あぁ。よろしく」

居間に向かうと美味しそうな料理が並んでいた。

「今日は豪華だな。飛翔、張りきりすぎじゃないか?」

「家族が増えるって言われていたので」

「組長!俺も手伝ったっすよ!」

茶色い髪の毛で犬を連想させる男の人が朱鷺を見つめて首を傾げる。

「組長!女の子!女の子がいる!」

「昨日話しただろうが」

「李矩。ちゃんと挨拶しろ」

「犬神李矩っす!よく犬っぽいねって言われてアダ名はポチっす!」

この時、朱鷺は、名前にあった性格してそうだと思った。

「騎馬朱鷺です…アダ名は無い…」

「朱鷺よろしくっす!」

「こいつは元気が取り柄だから煩かったら悪いな」

「ううん。大丈夫だよ。おじさん」

「組長。気になっていたのですが何故この子を拾ってきたんですか?」

「こいつの母親は妻の妹だ。唯一の家族を引き取らない訳が無いだろ」

「なるほど…」

「子供は欲しかったし丁度いいだろ」

「そんなペットを飼うんじゃないんですからね?」

「わかーってるよ」

「皆さんからの紹介は受けたっすか?」

「うん」

「ならいいっすね!慣れるまで応援するっすよ!」

「ありがとう」

「応援は得意っす!」

「それしか出来ないだろう?」

「組長!お言葉ですが料理も作れるっすよ!」

「そうだったな」

「朱鷺も料理を作る日が来るだろう。飛翔あとでエプロンとスーツ頼んだ」

「畏まりました。後で採寸に協力してくれ」

「分かった」

「やっだ〜ちょっと出てくるわね」

スマホを見た猟豹は顔をしかめていた

「また喧嘩か」

「程々にしてくるわよ」

「当たり前だ馬鹿」

「んじゃ行ってきまーす」

「ったく。今度は警察沙汰にならなければ良いが」

「そう言えば詳しい説明をしていなかったな」

「していないんですか!?」

「あぁ。頼んだ」

「はぁ…ここは音野組だ。朱鷺が入ってきた、この世界は極道で、そこにいらっしゃるのが組長だ。これで分かったか?」

「う…うん…それは分かったけどどうして私はこの世界に…?」

「朱鷺の母親が姐さんの妹だからだ」

「えっ…?」

「会った事無いのか?」

「うん…お世話になる時が来るからってだけ…」

「…飛翔。」

「調べておきます」

「他に聞きたい事は」

「私…元の世界に戻りたい…」

「この世界に少しでも足を踏み入れた以上無理だ。」

「私は頼んで無い!」

「もし、ここを出るとしても何処に行く気だ。
あの子の家族は、とっくの昔に亡くなって居るし他に頼れる奴なんて居ないぞ」

「私は普通が良い!」

「無理だな。諦めろ」

「嫌だ!」

「…埒が明かん。部屋に連れて行け」

「御意。朱鷺行こう」

飛翔が朱鷺に恐る恐る手を差し出す。

「…」

朱鷺はそれを見て従わないといけないんだと感じた。

それでも諦めきれなかった朱鷺。

もしかすると猟豹ならどうにかしてくれるかもしれない。

だって偉い人に、ため口で話していたから。

今日の夜に連れ出してもらおう。そう考えた朱鷺。

ご飯を食べてしまい廊下に正座で待つ事に。

「風邪ひくよ…」

その小さな声に驚いて振り向くと長い前髪で顔が見えない男の人。

「…誰…」

「俺は狼火…よろしくね…」

「よろしく…」

「俺は良く影が薄いって言われるんだ…」

「え?」

「だって…さっきも気付かなかったでしょう…?ずっと居たよ…?」

一瞬ホラーの話でも聞かされているのか?と思ってしまった朱鷺。

だが、相手は嘘を言ってるように見えなかった。

「ふふ…笑。信じられないって顔してる…笑」

心の中を見透かされて恥ずかしくなってきた朱鷺。

「俺はね…人の心を読むのが得意なんだ…気配を消すのも得意…」

ふふ…笑と小さく笑う狼火。

「皆は俺の事を不気味だって言うけど…ここの人は違う…皆、優しいよ…」

「狼火お兄ちゃんも優しいと思うよ?不気味なんかじゃない」

「ふふ…笑。それはどうして…?」

「その布団は何に使うの?」

「君に…ここは寒いでしょう…?」

「ほら優しい」

「…君って変わってる…」

布団をかけてもらった朱鷺。

お礼を言うと狼火は手を振って奥に消えて行った。

朱鷺は再度意気込んで猟豹を待っていたが、その日には帰ってこなかった。

少しだけ眠っていた朱鷺は身体が浮いてる感覚で目を覚ました。

「玄関で寝ないで。邪魔になるわよ?」

横抱きをしてくれていた猟豹と目が合う。

「猟豹お姉ちゃんを待ってたの…」

「あたしを?」

「私…元に居た場所に戻りたい…」

「それは残念ながら、あたしでも無理。
組長はね?一度決めた事は何があっても覆さないの。」

「覆す…?」

「簡単に言えば変えないって意味。」

朱鷺は肩を落とした。

猟豹で無理なら諦めるしかないと思ったのだ。

「諦めなさい。ここに居る以上は安心だから、ここに居る事ね」

「そうする…」

「良い子ね。正しい選択よ」

部屋に連れて行ってもらった朱鷺。

布団の中に潜り猟豹に手を振る。

「ありがとう」

「い~え。それより、あんたちょっと痩せ過ぎよ」

「そう…?」

「明日、飛翔に言っておくから思いっきり食べなさい。良いわね」

明日が心配になった朱鷺。

「…お姉ちゃん…」

「何?」

「眠たくない…」

「嘘おっしゃい。目を擦ってるしトローンとしてるわよ」

「もうちょっと…お話…」

「ハイハイ。明日ね」

「やだ~…」

「ったく…一緒に寝てあげるから、そのおブスな顔どうにかしなさい」

朱鷺は嬉しそうに壁際に寄った。

「せっま~い!だからあたし誰かと一緒に寝るの嫌なのよ」

そんな文句を言われても…朱鷺は、そう思った。

「今回ばかりは我慢ね」

猟豹は、溜息をついた

朱鷺はお泊りみたいでウキウキしていた

「ちょっと。さっきより目が冴えてるじゃない。はっ倒すわよ。」

「お泊りみたいで嬉しくて…」

「ここは家族が多いから毎日がお泊りよ。さっさと寝なさい。あたしは疲れた。」

「うん…お休み」

「…ちょっと待って」

「なぁに?」

「あんたトイレ行ったでしょうね…」

「行ってないけど…」

「…」

「お漏らしなんてしないよ!」

疑いの目を向ける猟豹と怒っている朱鷺。

「ごめん笑ごめん笑。李矩が来たときは、お漏らししててね」

「李矩お兄ちゃんが…?」

「内緒よ?あたしがキャンキャン怒られちゃう」

李矩はやっぱり犬なのかと思った朱鷺。

「あの子、前世イヌよね」

朱鷺は大きく頷いた。

「やっぱりね」

朱鷺はウトウトし始めた。

猟豹は、そんな朱鷺を見てあくびをした

「おやすみなさい…」

「お休み」

二人は目を閉じた