「こんな夜に、綺麗な女性が飛び降りなんて。きっとお月様も許してくれないよー?」


なんだこのキザな男は。黒いパーカーに黒いスキニー。おまけに黒い羽根って。

「あの、ハロウィンまだ結構先ですけれど。」

「え?何言ってんの?君を迎えに来ちゃった死神なんだけど。」

この男、頭がおかしい。
でもそれ以前に、私の頭がおかしかった事に気がついた。
靴は隣で綺麗に揃えられている。まさか、ここで

「うん。そのまさかだよ。」

黒い羽根の男は続けて言う。

「貴方、相当闇をお持ちのようで。仕事なんてみんなそんな感じだよー?まったく、これだからストレス社会なんだよねー。まっ、僕ら死神からしたら大儲けだけどねっ。」

と指で円を作った。心做しチャリーンという音が聞こえてしまった。

大儲けならいいじゃない、と言おうとするとなんだか地面に涙が落ち始めていた。
安堵か後悔か、よく分からない感情のまま止まらなかった。

「...本当に、お月様は許してくれないよ。そんな綺麗な涙で泣かれたら。」

そう男は言うと、私の涙を拭い頭を撫でてくれた。随分久しい気持ちにどうしたらいいのか分からなかった。

「貴方、名前は?」

「彩、です。」

「彩ちゃん、か。僕の事はーそうだな。

クロ、とでも呼んでくれ、な?」