~【  】は実際は韓国語で話しています。~

 『これは夢?幻?この綺麗な顔!どう見ても、本物のヨンミンにしか見えない!!!』まなみは口をパクパクしながら、振り向いたその人をますますガン見した。
 ヨンミンは、奈津とジュンの後を追って、ヒロのところに行きたいのたが、女の子が突然おしりをついて、スカートの中も見えそうなくらい足も広げて座り込んだ上に、こっちを指さして口をパクパクし始めたので、放っておくことができなくなった。しょうがなく恐る恐る声をかける。
「ケ・・・ケンチャナヨ?(大丈夫?)」
ヨンミンは起こしてあげたい気持ちはやまやまだったが、なぜだか、近寄ったら危険・・・という防衛本能が働いて、彼女の半径2メートル以内に入れずオロオロした。
『こ・・・この声、この顔、やっぱり本物!!!しかも、わたしに声をかけてきた~!!!』
「だ・・・だ・・・大丈夫じゃな~い!ヨンミン!!」
ヨンミンが声をかけると、女の子はすっくと立ちあがって、こちらに向かっていきなり突進し始めた。その必死の形相と勢いにヨンミンは思わず悲鳴をあげる。
「ギャー!!!」
そして、奈津とジュンが向かった方向に全速力で逃げた。怖々振り向くと、立ちあがった女の子が両手を広げて自分目がけて走ってきている。
【助けて!!】
ヨンミンはそう叫ぶとヒロ、奈津、ジュンのところに向かった。

 「何で・・・二人でいるの・・・?」
奈津はコウキと悠介に声をかけた。奈津の目が、心なしか少しつり上がってるような気がする。声のトーンも低い。悪いことをしている訳ではないのに、コウキも悠介も、奈津にこんな目をされると、なんだか怒られている子どものような心境になってしまう。コウキも悠介もそろりとお互いの顔を見る・・・。
すると、そのタイミングで、後ろから『ギャー!!!』という悲鳴が聞こえた。振り向くと、ヨンミンが血相を変えて走ってきている。その後ろからまなみがヨンミンを追っかけている。ヨンミンはジュンに追いつくと、ジュンのシャツをつかみ、咄嗟にジュンを盾にして、その背中に隠れた。
【何々?誰この子?】
ジュンも状況が掴めずオロオロする。追いついたまなみは盾にされ振り向いた柄シャツの人の顔を見て、また、立ちくらむ。
「ジュ・ジュ・・・ジュン???うそ!!」
そして、その場に呆けたように立ちすくんだ。その場面を目にした奈津は、慌てて頭に手を当てる。
「あ!そうだった!」
奈津はコウキと悠介のことに気をとられて、すっかりまなみにヨンミンたちのことを伝え忘れていた。奈津はコウキと悠介を一旦振り返り、「そのままにしてて!」と言うと、ジュンとヨンミンの横を走り抜けるとまなみに駆け寄った。
「ごめん!電話で言うの忘れてた!」
奈津は口に指を当てると、『ナイショよ!』というように、一瞬怖い顔をしたが、破顔一笑。
「ヨンミンとジュン!」
と言ってまなみに抱きついた。そして、まなみの耳元で、
「まなみの大好きな!」
と付け足した。

 奈津がまなみのところに行くってしまうと、悠介はまた、「フン」と鼻で笑った。
「チャラチャラしたのが、また増えた・・・。」
そして、悠介はコウキに背中を向けてグランドに戻ろうとした。『そのままにしてて!』と言う奈津の言葉など無視して。
「待てよ!!」
コウキが言った。その声は大きく、そして響いた・・・。声が聞こえ、奈津はまなみの体に手を回したまま、コウキと悠介の方を振り返った。まなみ、ジュンとヨンミンも思わずそちらを見る。悠介もゆっくり振り返った。コウキは両手を握りしめる。
「サッカーだって、チャラチャラしてたら、県で勝つことなんてできないだろ!だから、中山だってここで練習してるんだろ!」
コウキの声は、さっきまでの穏やかな声ではなく、怒気を帯びていた。悠介は「何言い出したのこいつ。」という顔でコウキを見る。

【あのサッカーボール持った人・・・EXOのカイ先輩みたい!】
【わ、やば!似てるかも!でも、そのカイ先輩に向かって、ヒロすごく怒ってないか?】
ジュンとヨンミンは思わず二人で話す。

「アイドルだって、同じだからな。あいつら見た目チャラチャラしてるけど、めっちゃちゃんとしてるから。一流になろうと思ったら、在り方が大事なのは、どの分野でも一緒だろ!!」
コウキはまくし立てるように一気にしゃべった。・・・そんなコウキを悠介は黙って見つめる。

【ヒロ・・・こっち見て怒ってる気がする!オレたちのこと言ってる?】
【ぼくたち何か怒られるようなことしましたっけ?】
視線を感じた二人は、そろ~りと姿勢を正すと、さりげな~くかしこまった。

「ぼくは・・・ぼくはいい。でも、あいつらは・・・ほんとに頑張っててすごいから。」
コウキは一旦、息を整えると、ジュンとヨンミンを見て静かに言った。
 ずっと黙って聞いていた悠介がやっと口を開く。
「ぼくはいいって、じゃあ、おまえは違うの?」
コウキは悠介を見て、一瞬黙り込む・・・。そして、奈津に視線を移すと、目を細めた。
「そう在りたいって・・・思ってる。」
その時、悠介の脳裏に「BEST FRIENDS ヒロ」に関するネットの書き込みが次々と浮かんできた・・・。中には、本当にエグい書き込みもあった。目の前のこいつの存在が見事に否定されていた。『自業自得だろ』と思って、いい気味だったが、同時に、何でこんなに女にだらしなくてヘタれな奴をあの奈津が好きなのか・・・と、憤りと悔しさも半端なかった・・・。
『そう在りたいって・・・、もしかしたら、こいつはずっと一流になるべく、そう「在った」・・・のかもしれない。』
悠介がそんなことを考えながら奈津を見ると、奈津はこちらに向かって走って戻ってくるところだった。ほ~ら、やっぱり怖い顔をしてる・・・。
『こいつがこんなに叩かれるの分かってて、その関係を匂わせるようなことを平然と言う女性・・・奈津とは真逆の女性・・・。』
悠介はコウキと噂の女優を思い浮かべた。綺麗な人だったのは憶えている・・・。でも、はっきりとした顔は思い出せない。悠介は金網越し、できるだけコウキの耳元に自分の口を近づけると、おもむろに、
「キスした?」
と訊いた。バッと、コウキがこちらを向いた。目をまん丸にして、真っ赤な顔をしている。よく見ると、耳まで真っ赤だ。悠介は走ってきている奈津の顔を見てから、コウキの方を見てニヤッと笑った。
「オレは奈津としたよ。熱烈なのを。」
悠介の突然の告白に、コウキの顔色がみるみる変わっていく・・・。ちょうど奈津が二人の所に到着した。『ざまあみろ。』悠介は心の中でそうつぶやく。
「悠介、何か言ったでしょ!」
奈津が息をきらして、怖い顔をしている。悠介は何食わぬ顔で奈津を見ると、
「オレたち、幼馴染みだもんな。ずっと一緒にいるもんな。」
と言った。そして、それから、もう一度、ゆっくりとコウキを見た。