「僕とお付き合いして下さい」

「男女の付き合いなら断る」

 きっぱりと返す。
 ウサギはきょとんとした。
 少女は凛としていた。

 断られると思っていなかったのだろう、二の句が続かない。
 だが何より、少女が持つ宝石から目が離せない。

 十二月を込めた意志。
 神秘的な月の石。
 ラピスラズリがウサギを見ている。

 それが本気で欲しくなり。

 同時に。

「綺麗な瞳だね」

「うん。私の自慢だ」

 絶対手に入らないことを
 ウサギは思い知った。



「ふむふむ。奇特な願いだね」

 少女の話を聞いた第一声がそれだった。
 といっても、月に行きたい。なんて言われて具体的に速答できるはずは、普通はない。

「だめか?」

 しかし、

 ウサギに限ってそれはない。

「お安い御用」

 ぴょん、と跳ねる。
 くるりと宙返りし、広い場所へと少女を誘った。

 其処は天井のない庭だった。

 蓋のない箱は月をすっぽり包み込む広さ。菜の葉に囲まれた庭園には、星型の花が咲いていた。
 白い茎、四枚の葉、一本の根。
 花はどれも空に向いている。

「お好きな花を選びなさい」

 それが道案内だ。
 ウサギは言う。

 キラキラ光る星花。
 チリチリ奔る星花。
 サラサラ零る星花。
 はやくはやくと急かす星花。
 私を私をと強請る星花。
 少女は、一つの花を選んだ。

「よろしい。では舞台を挙げよう!」

 ぱちり。ウサギが指を鳴らす。


 一斉に――

 星の花火が空に昇った。