一つ。


 足元さえ覚束ない闇の中で、
 明かり一つない黒の胎で、

 見覚えのある傷に触れた。

 手が薄汚れた。
 それに反比例して沸き上がる希望。あと二回だった。

 曲がり角も突き当たりもない。
 それが安堵と絶望だった。
 最後
 其処のない落し穴。

 少女はまた堕ちていく。


 二つ。


 再び三度、足を運ぶ。

 赤い靴は躓き壊した葉の液で黒ずみ、白かったワンピースは土の香と色に汚されていた。

 真っ白い指先も

 薄桃色の頬も

 紫陽花のような髪も

 何もかもが汚れて

 何もかもが傷ついて

 何もかもがつらくて

        歩き
 それでも少女は堕ち続けた。


 三つ。


 壁を沿っていた指先が止まる。
 傷ついた爪先が固まる。
 暗さになれてしまった瞳を細めながら、少女は確かに光を見た。

 其処は確か
 指爪で傷を付けた場所。

 知らず早まる歩調。
 忘れていた疲れが肩を揺する。
 はあはあと息を荒げながら。

 少女は光に辿り着いた。



 射し込んでくる燈。

 パチ、と火がはぜる音。

 暗んだ目を擦りながら、少女は声を聴く。

「いらっしゃい、小さなお客さん。今宵は何を御所望で?」

 随分高いところから声がする。
 黒いカーテンを前に、少女は思った。

「こらこら、話す時は人の顔を見るように」

 ぷん、と怒った声。
 カーテンが少し仰け反った。

 それは舞台装置ではない。
 大きな子供の、お洒落な正装だった。

 膝を折って覗き込むウサギ。
 蝶ネクタイの代わる鈴。
 真っ赤な瞳に少女が映る。

「それでお姉さん、どんなご用件でしょう」

「何でも叶えてくれるのか?」

「相応のモノを頂きますが」

「お金は持っていない」

「ええ、結構ですとも」

 ウサギは嬉しそうに笑った。