雲に隠れようとする月。

 木の葉の天蓋に隠されてしまいそうな少女。


 風の街道に沿って歩く月。

 どんぐりの砂利道を走る少女。

 それはかくれんぼなのか。
 それは鬼ごっこなのか。
 終わりがない一つのステップ。
 手も繋げない冷たいダンス。
 追い縋る姿を振り返らない月。
 彼は何処に行くのだろう。





 疲れても歩くことを止めない少女。その目の前に、ひらりと小さな粉が舞った。

 見れば煌びやかな装飾品。
 虹色に光るドレス。
 鮮やかな文様が入った裾。
 しなやかな触角のティアラが似合う蝶々。

「そんなに急いで何処に行くのかしら?」

「また新しいステージですの?」

「あらいやだ、靴を新調した甲斐がありますわ」

「ちがう。私は踊る気はない」

 少女が答えると、蝶々たちはまあっ、と驚いた。

 確かに着飾りもしない白いワンピースに、赤い平凡な靴、場違いであることには間違いない。

 それでも、
 彼女は踊るべきだと
 男も女もそう思った。

「ねえお嬢さん? そんなに急いで、何処へ行くの?」

「そうよ。一緒に踊りましょう」

 だが、少女は首を振る。
 踊るつもりはないんだ、と。

 蝶々たちはガッカリした。

 一人、また一人。少女から離れて夜のステージに上がっていく。
 お相手はランタンを持った蛍男爵の一行。
 一人、また一人手を取っていく。

 それを少女はじっと見ていた。
 羨ましいのか。
 残った一人の蝶々は、そう問い掛けた。

「少しね」

 綺麗なウインク。
 乾いた笑みが、印象的だった。