「ほう。それが、お前達が職務を放棄する理由になると? まさか、また辞めるなどと言い出したのではなかろうな?」

 ジェラールの険しい表情からは、ただならぬ怒りが感じられた。
 周囲の気温がぐっと下がり、ゴーっと木々を揺らす風の嫌な音がする。ふと上空を見ると、雲ひとつなかったはずの青空には厚い雲がかかり上り始めていた。

(え? これって、魔法? っていうか、まずいわ)

 一部の竜人は魔法のようなことができるのは知っている。竜王の感情が昂ると嵐が起こるという話を噂で聞いたことがある。
 つまり、それだけジェラールが魔獣舎のこの状況に怒っているということだ。

 ジェラールの気迫に、リンダの顔色が一気に真っ青になる。
 リンダは清掃係なので魔獣係とは全く無関係だ。ミレイナがここに立ち寄りさえしなければ、ここに近付くことすらしなかっただろう。