ラングール国の竜王──ジェラールの右腕であるラルフは、ふと書類から顔を上げてジェラールの様子を窺い見た。

 最近、ジェラールの機嫌がすこぶるいい。
 そのお陰で、ラングール国全体によい空気が集まる好循環が続いている。

 長年に亘っての懸案事項だったアリスタ国との和平が結ばれ、国内は平和そのもの。
 天候も安定し、治安もいい。

 機嫌がよくなる要素は盛りだくさんなのだが、一番の原因はやっぱりあれだろう。

「ラルフ、少し休憩してくる」

 時計の針を確認したジェラールが、ラルフの返事を聞く前に机に手をついて立ち上がる。

「はい、わかりました」

 ラルフは承知したと軽く頭を下げてその姿を見送った。
 婚約者殿には申し訳ないが、ラングール国の平和のためにここは頑張ってもらうしかない。