「竜王が亡き者になったことで、ラングール国が攻めてくるのでは?」
「それこそがこちらの狙いです。あちらから攻めてきたのであれば、反撃しても国王陛下もなにも言わないでしょう。なにせ、野蛮で粗暴な民族な上に、竜王は『白銀の悪魔』と呼ばれるほどの残虐非道ということにしてありますからね。先方が突然剣を抜いたのでやむにやまれずと言っても、誰も疑わないでしょう。竜王がいないラングール国など恐るるに足りません。明日に備えて、兵力は既に国境沿いに集めてあります」
「なるほど、抜かりないな。かの地を手にいれれば、さぞかし魔力の原料がたくさん採れるだろうな」

 ガハハッと下品な笑い声が上がる。
 ミレイナはあまりのことに、体が震えるのを感じた。

 これは密会だ。
 しかも、ラングール国に和平を持ちかけておびき出したところで竜王であるジェラールを亡き者にして領地を横取りしようという陰謀の。

(大変だわ! ジェラール陛下に知らせないと)

 でも、どうやって?
 ミレイナは呆然とする。
 自分には今、ジェラールと連絡を取る術がないのだ。

 動揺して足下がふらつき、ガタンと音がたつ。

(いけないっ!)

 ミレイナは咄嗟に荷物を物陰に隠し、自身もウサギに変化して廊下に置かれた彫刻の裏に隠れた。