ミレイナはしぶしぶ頷いてそれを受け取ると、部屋を出た。

 領事館の本館は木造三階建ての洋館で、横に長い建物の内部には一本の長い廊下が通っている。階段は中央に一箇所だけだ。二階の端の部屋を出たミレイナは、家に帰ろうと階段へと向かう。
 そのとき、遠くから「ラングール国」「竜王」という単語が聞こえてきた気がして耳を澄ました。

(上の階かしら?)

 ミレイナはそっと階上を覘く。人の気配はないので、室内で会話をしているのだろう。
 なんとなく気になって、目を閉じて耳に意識を集中させる。

「本当にうまくいくんだろうな?」
「和平協定を結びたいと話してあり、先方は乗り気です。協定の契約書にサインしたところで乾杯の杯を渡せば疑われません。一気に煽らせれば、いくら竜王でもただでは済まないでしょう」

 ミレイナは断片的に聞こえてきた会話の内容に、眉を寄せた。

(これって……)

 いても立ってもいられず、忍び足で階段を上る。そして、廊下の一番奥、閉っている扉に耳を寄せた。