(『あなたは特別な存在です』だったっけ……)

 ミレイナはリンダの言葉を反芻する。

 たしか、背中は無防備なのでそこに乗せるということは特別な愛のメッセージがあると言っていた。

(陛下もいつか、愛した人をこうやって乗せるのかな)

 今ミレイナが乗せてもらったのは、ただ単に時間の制約の問題だ。けれど、ジェラールも愛する人をこうやって背に乗せて飛ぶ日がくるのだろう。

(気になる女性がいるって聞いたし、きっとすぐね)

 ジェラールが愛する人と結ばれる。
 とてもめでたいことなのに、ミレイナは胸に痛みを感じて視線を伏せる。けれど、またすぐに顔を上げて辺りを見渡した。

 いつの間にか、遥か前方には町が見えていた。アリスタ国だ。
 ミレイナは背後を振り返る。どこまでも続く森の向こうに、小さくラングール国の王宮が見える。

 もう二度と見ることがないであろう景色を、しっかりと目に焼き付けた。