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 紅茶を入れたトレーを押しながら、ミレイナは人知れずため息をつく。

(みんな、いい子にしているかしら?)

 行政区の侍女役に任命されてから早一週間。完全なるもふもふロスである。
 あの可愛い子達のもふもふに顔を埋めたいのに、思ったよりも拘束時間が長くて全然会いに行くことできない。

 ミレイナの今の仕事は、行政区と呼ばれる執務エリアで働く文官達にお茶を用意したり、会議の前の簡単な準備を手伝ったり、資料を届けに行く雑用を引き受けることだ。

 仕事は問題なくこなしている。
 魔獣係と違って服が汚れることもなければ、時々文官達に用意するお菓子のあまりを貰えたりする。

 そして──。

「ミレイナ、どこに届けにいくんだい?」

 ミレイナが顔を上げると、爽やかな雰囲気の男性が前から歩いてくるところだった。焦げ茶色の少しくせがある髪は無造作に掻き上げられ、大きめな口は緩やかな孤を描いている。