イケメンの膝に乗せられ、優しく微笑みかれられながら手ずから食事を食べさせられる。
 乙女なら一度は憧れる夢のようなシチュエーションだが、ミレイナは素直に喜べない理由があった。

(だめ、だめ! 太っちゃうから食べちゃだめー!)

 ミレイナは必死にイケメンの誘惑及び食欲と戦う。
 
 なぜなら、ミレイナを愛しくてたまらないと言いたげなこの目の前の男──ジェラールこそ、『白銀の悪魔』と呼ばれ、人々に冷酷非道と恐れられる竜王陛下その人であり、ミレイナのことを太らせて食べてしまおうと企んでいるのだから!
 

    ◇ ◇ ◇


 それは遡ること半日ほど前のこと。
 ミレイナは、自宅から歩いて一時間ほどの場所にある草原に来ていた。

 この草原はちょうど国境付近にあり、ミレイナが住むアリスタ国と隣国ラングール国のどちらにも所属しない地域だ。