以前からこの状況を打開しようと交渉を進めているのだが、こちらが竜王自ら出向くことを打診しているにも拘わらず先方は辺境の領主しか対応に現れず、話がなかなか進まない。
 再三にわたって「アリスタ国王を」と要求しているのだが、領主はこの件に関しては自分が任されているというばかりで暖簾に腕押しだ。

 アリスタ国側が国境を破ってこちらの国に侵入し魔獣を密猟や魔法石の盗削しているというのは、もはやラングール国にとって疑いようがない事実だった。しかし、アリスタ国側はいくつもの証拠を突きつけても惚けるばかりだ。

 そして、最も懸念すべきは本物のドラゴンに間違えられた竜人の子供がアリスタ国の密猟者に撃たれたり、連れ去られることだった。アリスタ国は密猟を認めないので、当然子供を傷つけたことも認めない。

「アリスタ国に連れ去られていなければいいのですが──」

 ラルフは青ざめた表情で、ジェラールの後を追いかけた。

「ゴーラン。クレッグを探してくれ」

 ジェラールは執務室でのんびりと昼寝していたゴーランに語りかける。ゴーランは元々、赤ん坊だったときにジェラールが保護した野生のフェンリルだった。
 親を密猟で殺され、たった一匹だけ生き残っていたところを拾ったのだ。