「ただいまー!」



玄関のドアが開いて、お父さんの声がした。



「お父さん、おかえり! ご飯できてるよー」


「ほんとだ、いい匂いしてるな。じゃあ着替えてくるな」



お父さんはスーツから部屋着に着替えてくると、食卓についている私の真正面の椅子に座る。



「いただきます!」



2人同時にそう言って、食べ始める。


これが、我が春瀬家の日常。



「結那、あのな。実は、大事な話があるんだ」



お父さんが食べながら、突然切り出してきた。


……なんだろう、大事な話って。



「改まってどうしたの?」


「食べながら言うのもなんだが……結那に、会って欲しい人がいる。」



会って欲しい人? それって……



「お父さんな、実は、再婚を考えている人がいるんだ」



……やっぱり。


思ったほどショックを受けていない自分に驚く。



「そっか。いいよ、新しいお母さんってことでしょ?」


「ああ。……ありがとな、賛成してくれて。もし結那が嫌だって言ったらもう少し先延ばしにようかと思ってたから」



お父さん……。



「お父さんにとって1番大事なのは、結那だからな」



こんなに私を思ってくれてるお父さんの幸せを、私のせいで邪魔したくない。


だからいいんだ、これで。


全く寂しくないと言ったら嘘になるけど。


━━━━━この時の私はまだ、何も知らなかった。


後からこの決断を後悔することになることも。