「ただいまー」



家の玄関を開け、薄暗い部屋に向かって言う。


もちろん、返事は帰ってこない。


私の家は父子家庭で、お母さんは私が小さい頃に病気で亡くなった。


いや、正確に言うと、亡くなった、らしい。


私が物心着いた時にはすでにお母さんはいなかったから、私にはお母さんの記憶が無い。


だから、お父さんが1人で私を育ててくれたんだ。


友達は、お父さん嫌いとか気持ち悪いとか言
う子が多いけど、私はそんなこと、1度も思ったことない。


そりゃあ、反抗期も人並みにはあったんだけど、心の底から嫌いだとは思わなかった。


だってお父さんは、私の唯一の身内だもん。


普段は優しいけど時には厳しくて、すごくかっこいい私の自慢のお父さん。


そんなお父さんは料理が全くと言っていいほどできないから、小さい頃からご飯は私が作っている。


だから今日も、ご飯作って待っとかないと。


確か今日は、いつもより少し早く帰ってくるって言ってたっけ。


私は冷蔵庫の中を確認すると、早速今日の夕飯の準備に取り掛かった。