最初の席は名前順だから、美波と美妃は前後で、私だけ離れていた。


自分の席に着くと、隣の席の男子がこっちを向く気配がした。



「お、ラッキー、隣結那ちゃんじゃん!」



その声に彼の方を見る。


……えっと、誰?



「あれ、俺の事知らない? 中村 蓮です」



中村 蓮……あ、聞いたことある。


確か美波がイケメンって騒いでた人だ。



「なんで私のこと知ってるの?」


「えー? 俺、可愛い子の顔と名前は全員把握してるから」



うわ、チャラい。


あんまり関わりたくないなぁ……って、隣の席になっちゃったんだけど。



「結那ちゃんって、近くで見るとほんとに可愛いのな」


「……そりゃどーも」


「うわっ、冷た〜! まぁ、そんなとこも可愛いけど!」



……なんなのこの人。



「そんな目で見んなって! 」



そう言ってヘラヘラと笑っていた中村くんだが、突然真剣な表情になった。



「あのさ。結那ちゃんって、その……椎名さんと、仲良いの?」



椎名さんって、美妃の事?だよね?


……へぇ、そういうこと。



「うん、美妃、美波、隣のクラスの麻里と私の4人でいる事が多いかな」


「そっか……」


「なに? 美妃の事気になってんの?」


「へっ!? べっ、べつにそんなんじゃねぇよ!」



真っ赤になって必死で否定する中村くん。


やっぱりそうなんだ。私の事は初対面から『結那ちゃん』だったのに対して美妃のことは『椎名さん』って呼んだから、怪しいと思ったんだよね。


なるほど、もっと女慣れしてるとばかり思ってたけど、意外とそんなこともないのかも。



「へぇ〜? ほんとに?」



からかうようにそう言うと、中村くんはムッとした様な顔をした。



「結那ちゃんって、案外意地悪だよな」


「ごめんごめん、反応がおもしろかったから、つい! 美妃とのこと応援するから、許して!」


「だ、だから俺は別に……」



こんなやりとりを続けるうちに、中村くんとは初対面とは思えないほどに打ち解けていた。



「てかさ、俺だけ結那ちゃんって呼ぶのも何だし、俺の事も蓮でいいよ。」


「うん、じゃあ、蓮。蓮も、私のこと呼び捨てでいいよ?」


「まじ? じゃあ結那って呼ぼうかな」



最後には中村くん……いや、蓮がそう言って、私たちはお互いに名前で呼び合うようになった。