にしても、人参嫌いなんて意外。
可愛い一面もあるんだなぁ。
「おい、なにニヤニヤしてんだ」
ホッコリしながらレジに並んでいると、ほっぺたを摘まれた。
「いひゃいですよー、やめてくらさい!」
「俺の昼飯に人参入れないならやめる」
「そんなに嫌いなんですか?」
先生はムスッとした顔で私のほっぺたから手を離した。
「だって、すげぇ嫌な味すんじゃん。パクパク食べる奴の気が知れねぇ」
あ、やっと認めた。
けどレジまで来ちゃったから、もう引かないもんね。
「大丈夫ですよ! 人参嫌いでも食べれるように作りますから!」
「いやいや、無理なんだって、人参だけは!」
「騙されたと思って食べてください! 味は保証します」
「……分かった。でも、もし本当に騙されてたら俺の言うことなんでも聞いてもらう」
……えぇ、すでに聞いてる最中なんですが。
まぁいいや、自信はあるし。
「分かりました、もし食べれなかったらなんでも聞きます」
「言ったな?」
「はい、自信あるんで」
「じゃあ何してもらおっかな〜」
急に機嫌が良くなった先生を横目に財布を取り出すと、横から伸びてきた手によって取り上げられた。
「え?」
「いや、ここは俺が出すから。料理までして貰うのにお前に出させる訳にはいかねぇよ」
「え、じゃあせめて割り勘……」
「いやいや、ここは普通に考えて俺か出すとこだろ。今回だけじゃねぇよ? これからも、食費は俺が全部出すから。作って貰ってんだからそんくらいしないと俺の気が済まない」
さっきまで人参食べないとか言ってた人と同一人物とは思えない……。
「……ではお言葉に甘えます」
「おう!」
財布を返してもらって、鞄にしまう。
やっぱり大人なんだなぁ……なんてしみじみと思いながら、お金を払う先生を見つめていた。

