「ほら、乗って」
そう言って開けられたのは、助手席のドア。
助手席にお邪魔してもいいのかな?
彼女さんとかいらっしゃったら申し訳ないんだけど……。
「彼女とかいないから、さっさと乗れ」
ひぃっ、心読まれた!?
驚いた顔をして先生を見ると、早く乗れと言うように顎でシートを差した。
「お邪魔します……」
先生は助手席のドアを閉めると、自分も運転席に乗り込む。
「お前が考えてることなんてバレバレなんだよ」
私って、そんなに顔に出るかな?
先生が車を発進させて、景色が後ろへ流れていく。
会話が続くといいんだけど、スーパーって遠いのかな。
いや、近くにあるって言ってたから遠いことはないよね。
私は、シートに置いてあったクッションを手に取って、無意識に匂いを嗅いだ。
わぁ、先生の匂いがする。
って、私変態みたいになってる!?
この、無意識に物の匂いを嗅ぐのは、私の小さい頃からの癖なんだ。
お父さんが仕事でいなくて寂しくなった時、お父さんの物の匂いを嗅いで気を紛らわせてた時期があったから。
まぁ、それで余計に寂しくなったりもするんだけどね。
懐かしいなぁ……。
なんて考えながらクッションの匂いを嗅いでいると、隣から視線を感じた。
やばい、また変人扱いされる……。
そう思いながら隣を見ると、何故か先生はこっちを見たまま固まっていた。
ん?運転しなくていいのかな?
ああ、今赤信号だったのか。
「先生? どうしたんですか?」
固まったままの先生にそう尋ねると、先生はハッと我に返ったようで、クッションに手を伸ばしてきた。
「なーにやってんだよ、変態」
そう言って、クッションを取り上げて後部座席に投げる。
「あぁ、私のクッション……」
「いつからお前のになったんだ? あげた覚えないんだけど」
あのクッション、何気に気持ちよかったのに……。
でも、いつもの先生に戻ったみたいでよかった。
そんなに匂い嗅いで欲しくなかったのかな?