「……晩飯、作ってくんねぇ?」


「……へ?」



予想外の先生の言葉に、思わず間抜けな声をあげてしまう。


って、予想外って、私は何を予想してたのよ!



「ん? なんか他のことだと思った? 何考えてたんだよ、やらし〜」



ニヤニヤしながらそう言う先生を見て、からかわれていた事に気が付く。



「えっと……それで、私は先生のご飯を作ればいいんですか?」


「そ。毎日な」


「毎日ぃ!?」



今日だけかと思った。



「なんで私が……」



溜め息まじりにそう言うと、先生はポケットからスマホを取り出した。



「今すぐ言ってもいいんだぞ?」


「ああ! 分かりました! 作りますから!」


「ならいいけど。俺さぁ、料理できないんだよね。だから毎日インスタント生活なんだよ。でも流石にそろそろやばいって自分でも思ってたんだ。そしたらちょうどいいところにお前が来たから、これはいい機会だと思って。晩飯だけでいいから、頼む」



この人、インスタント生活だったの……!?


なのにその誰もが見惚れるような理想の体型を維持して、しかもバレーで男子高校生に付き合えるほどの体力を持ち合わせているのか。


どうなってんの、この人の体。


ここまでくると恐ろしいわ。


っていうか、ずっと思ってたけど晩飯だけって……昼食はどうする気なんだろう?



「分かりました。別に1人分から2人分になるだけですし、いいですよ。あと、昼食も作らせて下さい。ご迷惑じゃなければ」


「昼飯も作ってくれんの? 別に今のままコンビニでもいいかなーって思ってたんだけど」


「たまにならまだしも、毎日は体に悪いです。お弁当作るので、持って行ってください」


「わかった。ありがとな」


「いえ、口止め料はきっちり払います」


「お前……可愛くねぇな?」


「はぁ!? そんなの言われなくても分かってますよ! なにもそんなわざわざ言わなくても……」


「顔面の話じゃねぇよ。顔面自体は可愛いのに性格そんなんだから勿体ねぇなって話」


「なっ……!」



これ、けなされてるんだよね!?


そうそう、褒められてないんだから、言い返さないと。


なんだけど、言葉がでてこない。



「ほら、そんなとこに突っ立ってないで、早く入れよ」


「へ!?」



は、入るって、先生の部屋に!? なぜ!?



「今日から作ってくれんだろ? 毎日こうやって俺ん家来る訳にもいかないから容器に入れて持ってきてもらえればいいけど、今日はここで作って。ちょうどお昼時だし」


「は、はい……」



もう言い返す気力も無くなっていた。


言われるがままでいいや。



「お邪魔します……」


「どーぞ。一人暮らしの男の部屋に入るなら、それなりに覚悟しろよ?」


「は!?」



じ、自分が入れって言ったくせに……!


先生を見ると、悪魔のように不敵な笑みを浮かべていた。