「春瀬、おはよ!」



翌朝、電車に乗ると、既に乗っていた陸先輩が例の眩しい笑顔で挨拶してくれた。



「おはようございます!」



その流れで、先輩の隣に立つ。


私たち、兄妹になるんだよね……。


なんか、未だに現実味がわかない。


こんなかっこいい先輩が……しかも学校のアイドル的存在の先輩が、私のお兄ちゃん……?


うわぁ、めちゃめちゃ羨ましがられるポジションじゃない!?



「……あの、春瀬」


「はい?」


「……俺の顔に、何かついてる?」



苦笑いでそう言われて初めて、私は先輩を凝視していたことに気付いた。



「す、すみません、なんでもないです」


「そう? それより、もう敬語やめない?」


「は!?」



唐突すぎる提案に思わず大きい声をあげてしまい、周囲にジロジロ見られる羽目に。


それでさらに慌てる私を見て、クスクス笑う先輩。



「もう、からかってるんですか? どうしたんですか急に」



軽く睨みながら言うと、先輩はまた楽しそうに笑った。



「別に、からかってないよ。敬語やめない?って言っただけ。そんで、その『先輩』ってのもやめて欲しい」



えっと、つまり友達みたいに先輩と接しろってこと?


なんで?



「……おい、その顔やめろ。言いたいことあるなら言えよ」



いけないいけない、たぶん私今、思いっきり『何言ってんだこいつ』って顔してた。



「……なんでですか?」


「だって俺たち、兄妹になるんだろ? 結那」


「な、名前……」


「一応学校では黒木のままだけど、俺も戸籍上は春瀬になるんだし。兄妹なのに苗字呼びっておかしくね?」



まぁ、それはそうだけれども。


……だけれども。


いや、無理でしょ。


急にそんな、名前で呼んでタメ口で喋れなんて言われても。


いくらなんでも恐れ多すぎる。



「あの……しばらくはこのままじゃ、ダメですか?」


「だめ」



ううっ、即答……。



「っていうか、先輩。昨日でっかい溜め息ついてましたよね? 私、そんなに兄妹になるのが嫌なのかなって、結構傷ついたんですけど!」


「ああ……気付いてたんだ?」


「そりゃああんなでかい溜め息つかれれば、誰だって気付きますよ。なのになんで今日はそんな乗り気なんですか?」



そう聞くと、先輩はニヤリと笑った。


……な、なにこの顔、何か企んでる……?



「んー、攻め方を変えればいいだけだって気付いたから、かな」



は? ……攻め方?


なんの?



「おい、だからやめろってその顔。お前はなんの事か分からなくていーの。とりあえず今は、その喋り方と呼び方を変えること。いいな? 結那」



……ちょっと、意味わからなすぎる。


今まで普通に先輩として尊敬してたのに、意味不明な言動が多すぎて。


まずその、不敵な笑みをなんとかしてほしいです、先輩。