「もう何……げっ」



私の頭を叩いた硬い何かを掴んで、思い切り文句を言ってやろうと振り向くと、そこにいたのは出席簿を持った白石先生。



「げとはなんだ、げとは。悪かったな、俺の教え方が下手なせいでお前が数学だけできなくて」



“だけ”を強調して、すごく嫌味な口調で言ってくる。



「先生痛いです。体罰で訴えますよ?」


「そんな強く叩いてねぇよ。てかお前、訴えるの好きだな。セクハラの次は体罰かよ」


「セクハラ? 結那、何かされたの?」



美波が興味津々って感じで聞いてきて、あの時のことを思いだす。


すごく甘い声で、耳元で囁かれて……。


ぶわわわっと自分の顔が熱くなるのが分かった。



「……なっ、ナニモサレテナイヨ?」


「なんでカタコトなのよ? しかも顔真っ赤だし。怪しー……」



じーっと見られるので、その視線から逃れるように先生を見る。



「そんな真っ赤になるようなことしてねぇよ。春瀬が勝手に妄想してるだけだろ」



……なっ、なんですと……!?


あれが妄想!?


いや、ほんとに妄想かもしれない。


大丈夫かな私。



「ほらほら、もうこの話はいいから席つけ、授業始めるぞ」



先生が前に立つと、クラス中が一気に静まり返った。



「美妃? どうかしたの? 大丈夫?」


「えっ? ううん、なんでもないよ! ちょっとボーッとしちゃって」



麻里と美妃が小声で会話するのが聞こえてきて振り向くと、美妃と目が合いそうになった。


ニコッとしようとすると、パッと逸らされてしまう。


……美妃、どうしたんだろ?


私、何かしたかな……?