ふい、と顔を背けると、もう追いかけてくる足音は聞こえなくなった。真弓の肩越しにちらりと確認すると、柏木の足は縫いとめられたたようにその場に留まって微動だにしない。
後ろ髪を引かれる私、その後ろ髪を絶とうと言わんばかりに真弓はすたすたと歩いていく。
柏木も、その他の北川の追手の気配もついに消えて、ようやく安堵のため息を、はー……と零すと。
「くくっ」
「……?」
「あー、笑うの我慢すんのキツかった」
「はい?」
「お前、とんだ悪女だな」
からかうような眼差しがじっと私を見下ろす。
逃げ場のない視線は、心臓にすごく悪い。
「惚れた女にあんなこと言われちゃあ、トラウマになったんじゃねえの。執事サン、一生、お前のこと忘れらんねえだろうな、可哀想に」
「うっ。反省は、してるよ……っ」
ズキズキと罪悪感が胸の奥で軋むのは、自覚があるからだ。
『本気で嫌いになるから』────なんて、完全に柏木の気持ちを利用するようなことを言った。ああ言えば、柏木が動けなくなるだろうとわかっていて。
……そういえば。
「真弓。どうして、わかったの?」
「何が?」
「その……えっと……ほら、柏木が……、私のこと、すきだって」



