花鎖に甘咬み



柏木が見たこともない形相で真弓のおそろしく整った顔を睨みあげる。



「北川の財産目当てか? それなら、俺がくれてやる。それに……お前ほどの男なら、こんな回りくどいことをしなくとも金は手に入るだろ。女に飢えてるようにも見えない。お前がわざわざ、ちとせお嬢様を隣に置いておくメリットなんてあるのか」



これには、私のほうがドキリとしてしまう。


たしかにそうだ。


私は、真弓のそばにいたいと思っているけれど……真弓はどう思っているのだろう。私が望んだから、仕方なく一緒にいてくれるのかな。


真弓にとって、私はただのお荷物にすぎないのかもしれない。




「残念ながら、金目当てじゃねえな」

「じゃあ何だって────」

「ちとせだから、隣に置くんだよ。北川ちとせという人間にめちゃくちゃに興味がある。隣に置く理由なんて、それで十分だろ」



柏木が、目を見開く。



「……お前も、ちとせお嬢様が好きだと?」



柏木の問いを真弓はせせら笑った。



「あいにく、俺はそんな人間らしい感情は持ち合わせてねえんだわ」



その声は柏木をからかうようにも、また、真弓自身を自虐するようにも聞こえた。は、と乾いた笑い声を零して、真弓は私を抱く手に力を込める。



「じゃあな」

「……っ、お前」

「さようなら」



柏木に背を向けて、歩き出す。

追いかけては来れない柏木の声が背中から聞こえてくる。




「お嬢様……っ! お待ちください!」




悲痛な声に、キリリと胸が痛んだ。

でも、私ががかけるべきは無責任な慰めの言葉じゃない。突き放すしかないの。私が、もう二度と戻らないつもりである以上は。




「待つわけないでしょ」

「……っ、ちとせお嬢様」

「柏木。これ以上、私のことを探したり追いかけたりしたら、私、あなたのこと本気で嫌いになるから……!」