花鎖に甘咬み




小さく敬礼のポーズをとった私に、真弓はまた面白そうに声を上げて笑った。いくらなんでも笑いすぎである。



「待て!」



その場から離れようとした私たちに目ざとく気づいた柏木がバタバタと追いかけてくる。真弓がげんなりとして、私を横目で見る。



「あのしぶとさ、やっぱ、お前譲りだわ」

「まあ……16年ちょっと、一番近くにいたからね?」




ともすると、家族よりも長い時間を過ごしている。

まさか……まさか、柏木が私に好意を寄せてくれていたとは、今の今までまったく知らなかったけれど。



「普通にムカつくな」



ぼそりと真弓が呟いた。

あまりよく聞こえなかったけれど……というのも、轟速で移動中のため、風の音に紛れて消えてしまった。



「っ、ちとせお嬢様!」



他のボディガードたちが、真弓にいなされてあっけなくへばったのに対して、柏木は息を乱しつつも倒れる気配はない。

燕尾服の裾を、鬱陶しげにはためかせながら、真弓と攻防を繰り返していた。




「俺は……どうすればいいですか。ちとせお嬢様を失えば、俺はどうしていいかわからない。お嬢様が、俺の、すべて、だったので」

「諦めろ」

「っ、うぐ……っ」




柏木の瞳が私だけをとらえて、警戒がゆるんだ瞬間、真弓がみぞおちに踵を落とした。慈悲のひとつもない一撃に、柏木の体がドサリと重力を持って崩れ落ちる。




「ちとせは、お前の代わりに俺が死ぬほど可愛がってやるよ」

「……っ、お前は────」

「言いたいことがあんなら言え」




冷たい氷のような眼差しを向けられて、立つことすらままならない柏木は唇を薄く開いて尋ねる。





「お前は、何が目的なんだ」