花鎖に甘咬み




「ま、真弓……っ、これ、どうするの……!」



真弓に囁きかける。

さっと、するっと、逃げるはずだったのに、正反対じゃないか。じりじりとにじり寄ってくる北川の男たちにぐるりと取り囲まれていて、檻の中だ。


慌てる私とは反対に、真弓は余裕の笑みを浮かべて私の耳元に囁いた。




「想定内だ。これくらい、すぐに巻ける」

「ほ、ほんとに? 言っとくけど、うちの人間はけっこうしぶといよ?」

「はは、お前に似て?」

「もう……っ!」



ドス、と真弓の脇腹を小突く。
すると、くっく、と堪えるように笑って。



「大丈夫だ、安心してろ」

「っ、でも」

「〈猛獣〉なめんな」



呟いた、次の瞬間。
真弓が左足を大きく蹴り上げた。

ドゴッ、ドサッ、と立て続けに不穏な音がして、大の男がふたり、あっという間に地面に伸びる。




「……っ!」




その一撃で、あたりの空気が呑み込まれる。
この空気の支配者は、本城真弓、ただひとり。


腕の中にいる私でさえも、思わず、びくりと肩を震わせるほどの威圧感。圧倒的な強者に、平伏せざるを得ない。


それでも、なんとか真弓を押さえようと飛びかかってくる男たちを真弓は器用に躱し、たまになぎ倒し、ぐるりと取り囲んでいた人垣に穴を作る。



「す、すご……」



なんという早業。

びっくり感嘆の声を上げる私に、真弓は「おい」と呼びかけて。




「スピード上げるからな。舌噛むなよ」

「っ、わ、御意!」