花鎖に甘咬み




視線を泳がせると、また柏木と視線が絡む。
……たぶん、向こうは、半分くらい気づいている。


私が柏木に気づいているんだもん。服を着替えているとはいえ、柏木が私に気づかないはずもない。



もうあと少しもすれば、きっと柏木は確信を持って近づいてくるはずだ。

起こす行動も目に見えている、私を捕まえて、あの無駄に大きい黒塗りの車に押し込まれて、そのまま北川の屋敷へと直行だ。



そうなれば、私はまたあの白百合の制服に腕を通して、明日から学園に通うのだろう。



今日のことなんて、全部なかったことになって。

元通りになって、またお父様の手駒のひとつになる。


生まれたときから、ずっとそうだったように。




「……っ」




唇をきゅっと噛む。

助けを求めるように、すがるように、真弓の色のない瞳を見つめて、それでも何も言えずに黙っていると。




「ちとせ。帰れば?」

「へ……っ」




突き放すような台詞に、びっくりして目を見開く。




「あの男どものところに行って『血迷っただけです、今から大人しく帰ります』って言えばいい。お前のことを連れ戻しに来たんだったら好都合だろ、帰る場所があるなら帰ればいい」

「待っ、なんでっ? なんで急にそんな追い払うようなこと」

「急じゃねえよ、最初からそのつもりだった」

「最初からって、どういうこと」

「『助けてやる』っつったろ。〈薔薇区〉に迷いこんだお前を助けてやるって言った。お前を〈薔薇区〉の外に連れ出す、それが『助ける』ってことだろ」

「じゃあ……私をここに置いて、真弓は、戻るつもりだったの? 〈薔薇区〉 に」

「ああ」




もしかして、金の鍵をわざわざ持ち出して。

こんなところにまで夕食に連れ出したのは、最初からそのつもりで……?