悲鳴に近い声を上げて、電流が走ったかと思うほどの衝撃とともに背筋がピシリと固まる。
驚きだとか、疑問だとか、そこまで考える余裕もなく、突然のことにパニックに陥って、目を白黒させていると。
「やっぱりお前の知り合いか」
「知り合いっていうか、執事です〜〜……」
なんで、ここにいるの、柏木。
ここは西区、なんだよね?
普段、西区になんて出てこないくせに。
でも、間違えるはずがない。
あの背丈に髪型に、それからなにより特徴的な燕尾服。
あれは、16年とちょっと、きっかり私が生まれてから家出するまで、私の執事を務めあげた柏木で間違いない。
「カシワギ、って、あー……例の」
ついでに柏木の両脇にはボディガード的な、SP的な、屈強な男たちがついている。
名前はわからないけれど……顔はなんとなく見覚えがある。きっと、北川のひとたちだ。
「執事、若いんだな。もっと “じいや” っぽいのかと」
「柏木は私の8コ上なの」
「へえ。その歳で執事、ねえ」
「柏木の家族は代々、うちの当主に仕えることになってて、私が生まれたときから自動的に主従関係で……って変だよね。私はそんなあり方望んだことないのに」
立場の上下なんていらない。
私の言うことなんて、はいはい聞かなくてもいいから、ただ対等に言葉を交わせる関係でいられたら、って何度思ったことか。
「真弓の言葉を借りると、北川の屋敷の方が、よっぽど狂ってるよ。それこそ、ずうーっと昔からねっ」
なにがおかしいのか、真弓はくっくっく、と喉を鳴らす。
そして、やっとのことで笑い声が途切れたかと思えば。
「あいつら、ちとせのこと探してんじゃねえの」
その言葉に、ぱっと顔を上げる。
そして柏木の方にもう一度目を向ければ。
「……っ」
ぱちり、目が合ったような気がした。
柏木の顔は、険しい。
どう見ても、お寿司を楽しみに来ましたって顔じゃない。
それに、柏木がこんなところにノコノコくるわけがないし、周りにつけている過剰なまでのボディガードも、場違いだ。
そうまでして、柏木がこんなところに来る理由なんて。
「そう、だと思う」
「そりゃあなあ。お前の家からしたら、手に塩かけて育てあげたひとり娘が突然失踪だろ? しらみつぶしにでも探すだろーよ」
愛されてんな、と真弓が呟く。
私はふるりと首を横に振った。
そんな私に真弓は首を傾げる。
「お前、どうすんの? 見つかんのも時間の問題だろうけど」
「どう、するって」



