花鎖に甘咬み




飄々と淡々と、そう言うけれど。

たとえ、麗し、強くて、たったひとりで生きていける孤高のひとなのだとしても。



誰の肩も借りられないような人生は────たとえば、真弓の手がもし冷えきってしまったときに、その手を握って温めてくれるひとがいないのは。




「それって、寂しいことだよね」

「そうなんじゃねえの。普通の感覚なら」

「真弓は、寂しくないの?」

「普通じゃねえからな。なにせ “猛獣” なんだし?」

「それ、気になってたんだけど。“猛獣” ってなに?」

「〈薔薇区〉の奴らは俺のことをそう呼ぶ。二つ名的な────あながち間違ってもねえしな。ま、“人”の心なんざ、持ち合わせてないってことだ」




違うよ。
それは、間違ってる。

真弓だって……本城真弓だって、ちゃんと人間のはずだ。



勢いで反論しかけて、直前で呑みこむ。



真弓がいいと言うのなら、それでいいのだから。私の人生じゃなくて、真弓の人生だもん。



ひとの人生に土足で踏み入るのは禁忌だと、私が身をもって知っている。

わからずやのお父様に婚約を持ちかけられたことを思い出して、無意識に眉が寄る。


あの瞬間の絶望、失望感ったらなかった。
他人の人生に、口を出すものじゃないよね、やっぱり。




「つーか、さっきから視線がウゼエな」

「えっ、あ、ごめん!」




そんなに、真弓のこと、見つめていたっけ。
いや、見つめていたのかも。

慌てて視線を逸らすと。




「いや。ちとせじゃなくて、……アレ」

「へっ?」

「やたらこっち見てくんだけど。なに? あの男、ちとせの知り合いか?」

「男?」




真弓の視線の先、私の背後を振り返る。

と、そこには。





「っ、柏木……っ!?」