花鎖に甘咬み



「ん」



終わるとすぐに背中を向けてくれる。

もう少しからかわれたりするかな……って思ったのに。

意外と紳士なところもある。



「ありがと……」

「おー」



間延びした返事を背に聞きながら、ワンピースを脱ぎ落として、真弓が貸してくれたスウェットとパンツに着替える。


アカリさん(?)のものらしい、その服は着てみると、ジャストサイズ。

丈はぴったり、ウエストの部分だけ少しゆるかったけれど、気にならない程度だった。



「真弓」

「着替え終わったか」

「うん」



脱いだワンピース。
畳んでおこうと手にとると、ポケットになにか────。


そうだった。

入れっぱなしになっていた、すずらんのブローチと、それからチョコレート一粒。



どちらもココじゃあ、まったく役に立たなさそう……だけど、一応持っておこうかな。

ワンピースから取り出して、パンツのポケットに移して。



「んじゃ、とりあえず────」



真弓がなにか言いかけて。

そのタイミングで、空気の読めない「ぎゅるるるる」という音が盛大に響き渡る。


出どころは。




「ううっ、ごめん私です……!」




正直に白状するしかない。

だって、この場には真弓と私しかいないんだもん。


気の抜けるような空腹の音は、私のおなかからだ。


は、恥ずかしい。

恥ずかしい、けれど、それよりも。




「真弓、あの」

「なんだよ」

「お腹、すいた……」




ごまかせないくらいの空腹が襲ってきている。
いろいろあって、ありすぎて、忘れかけていたけれど。

私、今日、夕ごはん食べてなかった……!


正確には、夕餉の途中で、家出してきたんだった。

そのまま、逃げ出して、走って、走って。




追手からのがれて、安心すると途端によみがえってくる空腹。

正直いうと、お腹と背中がくっついちゃいそうなくらい、お腹がぺこぺこであります。