「ま、真弓」
「なに、終わった?」
「や! まだだけどっ」
「なんだよ」
話していないと、落ちつかない。
そわそわして、心臓がぴょこぴょこ飛び跳ねて、口から出てきてしまいそう。
ふー……と息をつきながら、背中のファスナーに手をかける。
このワンピースは、首の近くをボタンふたつ、それから背中をファスナーで留めて着る仕様、なんだけど……。
あ、れ。
「……っ」
と、届かない!
あとちょっと、というところで指先がファスナーを軽くかすめて、通り抜けた。
ううう……。
このワンピース、いつもどうやって脱ぎ着してたんだっけ────って、あ。
「真弓……?」
「お前は黙って服も着れないわけ」
「ちがっ! そうじゃなくて、あの、ファスナーがっ」
「は?」
「あの、真弓、背中のファスナー、外してくれませんか……」
羞恥を呑み込んで、お願いすると。
「……いや。ちとせ、いつもどうやって着替えてるわけ?」
「いつもは北川で働いてくれている使用人が」
柏木は着替えの部屋には入れないから、メイドたちが留めてくれていたんだった、と今になって思い出した。
「甘やかされてんな」
「自分でもそう思う……」
「しゃーねえなあ」
背を向けていた真弓が振り向く。
はだけた胸もとをあわてて隠すと、真弓は目元に愉悦をにじませて、くっと笑った。
「甘やかしてやってもいいか」
「え」
「ほら、さっさと後ろ向け」
なんで、逆らえないんだろう。
むしろ、逆らう気も起きない。
真弓に命じられると体が素直に従ってしまう。
ジジジ……とファスナーの音がこそばゆくて思わず目をきゅっと閉じる。
それを下げてくれているのが、真弓だと思うと、もっとだめで。



