花鎖に甘咬み




「わ、ほんとに家、なんだ……」

「お前んとこのやたら豪勢な城を基準にすんなよ」

「しないよっ」




むしろ、こっちの方が……。



隠し通路を抜けて、いろいろ気を取り直してあたりを見回す。

簡素な作りのワンルーム。

ヒビの入った無機質なコンクリートの壁際に、ベッドがひとつ。シャワールームに続いてるっぽい扉に、簡単なキッチン。



それ以外にはなにも見あたらない。



私、全然こっちの方が好きだな。
シャンデリアがギラギラ光っていて、使っていない部屋がいくつもある北川の屋敷よりも、ここのほうが、不思議と落ちつく。



「真弓はここに住んでるってこと?」

「まあ、そーいう感じ。正確には、拠点のひとつだな。ちょっと前までは他のとこで生活してたけど」

「けど?」

「アイツにバレて、壁ごと派手にぶっ壊された」

「アイツ……」

「花織」



花織さんかぁ……。
あのナイフが閃くような銀髪を思い浮かべる。


壁ごと建物を破壊するなんて、さすがに作り話なんじゃないかって思うけれど、冗談じゃないみたい。


住む場所まで狙うなんて、花織さんはよっぽど真弓に執着してるみたいだけど……。

真弓と花織さんって、どういう……?



次から次へと、謎ばかり。




混乱する私の後ろで、バサッと衣擦れの音が響いた。