花鎖に甘咬み



なんだ、と思う。

なんだ、真弓はこんなにも大切に思われている。真弓がそれを受け取ろうとしなかっただけで、少なくとも〈赤〉のひとたちに、真弓はこんなにも心配されて、思われて。


そのことが嬉しかった。




「花織さんに少しだけ親近感が湧きました!」

「ハア? 俺は願い下げなんやけど。温室育ちのオジョーサマに何がわかんねん」



ふいに、花織さんがブレーキをかける。

キキッと甲高い摩擦音を響かせて、バイクはぴたりと止まる。


見覚えのある建物の目の前。
覚悟を決めるべく、すう、と息を吸う。




「あんたも、ようこんな無茶しようと思うな」

「だって……、今回の作戦には、〈白〉のひとたちの協力が欠かせません」

「そりゃあそうやけど。作戦云々の前に、あんたが倉科にぐちゃぐちゃにされる可能性もあるのはわかってるやろ」




花織さんが睨むように見つめるのは、倉庫。
〈白〉の拠点────私が一度、拉致された場所だった。

体がすくまないと言えば、嘘になる。



「それは……もちろん、覚悟の上で」

「そう。ならいい、ここで待ってるからさっさと行ってくれば。俺が入るわけにはいかへんし」




そう、ここから先へは私ひとりで向かう。

〈赤〉の、それもナンバー2である花織さんが、〈白〉の倉庫に入るのは、それすなわち宣戦布告にあたるそうで、タブーなんだとか。


ふー……と息を吐き出して、呼吸を整える。よし。



「じゃあ、行ってきますね」



倉庫の入口に向かって、歩きはじめる。コツコツと足音がやけに響いて、心臓がバクバクして。

じわり、冷や汗をかきはじめたとき、後ろから。



「ただのお花畑やと思ってたけど、あんたは違う。やから、俺はマユマユをあんたに託すことに納得したんや。────認めてやる、やから、さっさと倉科を言いくるめて戻ってこい」



ふ、と思わず口角が上がる。

同時に頭のなかに真弓を思い浮かべて────大丈夫、なんだってできるはず、私なら。