「最初に会ったときに、すぐ分かった。マユマユを変えるとしたら、この女しかおらんってな。あんたは、マユマユにとっても────俺にとっても、イレギュラーな存在。この街に“囚われている”マユマユをもし連れ出せる人間がいるとしたら、それはこの女しかいない。現に、今そうなってるやろ」
花織さんは、はあ、とわざとらしくため息をついた。
「そんな特別な人間、おるわけない、現れるわけないと思ってた。現れてほしくないとも思ってた。────俺にとって、“本城真弓”は特別なんや。絶望の淵でマユマユに手を差し伸べられて、ここで生きていくことを決めた。“本城真弓”のいない〈薔薇区〉も〈赤〉も俺にとっては全く無価値。……だから、邪魔、あんたが。俺からマユマユを奪おうとするから」
でも、そう言うわりには。
「なんだかんだ協力してくれてますよね……っ?」
「諦めがついただけや。俺は、マユマユに不幸になってほしいと思ってるわけやないから。“本城真弓” が “本城真弓” のままで生きていけるなら、その方がいい────それが〈赤〉の総意」
だるそうに息をついた花織さんは、少しバイクの速度を落とした。
振り落とされるほどの向かい風が落ちついて、それは、花織さんが私をほんの少し認めてくれたような、そんな気がした。
「腹くくったんや。マユマユがいない〈薔薇区〉で、俺は〈赤〉のナンバー2を背負っていくんやって」
「……」
「マユマユの戻ってくる場所なんて、俺が埋めたからどこにもない。未練なんてひとつも残らへんようにな」



